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リズムについて — モートン・フェルドマン・1 [音楽]

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音数の多い音楽を聴き慣れてしまった耳にはモートン・フェルドマンはあまりに音が少な過ぎる。
ただ、ブライアン・イーノやフィリップ・グラスは、いわゆるアンビエント・ミュージックなのかもしれないが、ジョン・ケージはアンビエントではないし、そうした延長線上でフェルドマンを語るのにはもっと無理があると思う。と念のため、一応断っておくことにする。これは音数とか繰り返しパターンといったvisibleな外見だけで一括りにしてしまおうとする粗雑なカテゴライズへの予防線である。

フェルドマンのソロピアノ作品を識るための標準的なディスクとして、mode recordsからリリースされている高橋アキの《Aki Takahashi plays Morton Feldman》があげられると思う。フェルドマンもケージと同じで、名前は知っているけれど名前のみがひとり歩きしてしまっていて、肝心の現物の作品を知らないというような現象が往々にして起こる。これは著名なアヴァンギャルトの不幸である。

私も最初、フェルドマンが何ものなのか、よくわからなかった。人は、わからないものがあると表層的な共通性だけで類似のものに結び付けようとする。たとえばジャズ・ピアニストであるポール・ブレイの《Open, To Love》とか。これはかなり昔の一時期に有名だったソロピアノのアルバムであり、音数の少ない点描的な演奏方法であるが、そのルーツはスイングしていなくてもジャズであるし、百歩譲ってもアンビエント風であってフェルドマンとは違う (音楽における点描 pointillism という表現もあるらしい)。
決してポール・ブレイやアンビエントが駄目だといっているのではなく、これらは違うものだということに過ぎない。

ザビーネ・リープナーの弾いたフェルドマン、《early piano pieces》というWERGO盤のディスクがあって、これによって高橋アキの視点とは異なる角度でのフェルドマンを聴くことにより、フェルドマンに対する私の理解はやっと開けてきたような気がする。感性が鈍いと言われればそれまでなのだが。

フェルドマンの作品に共通するのは内在する恒常的なリズムである。出てくる音は少なく、寡黙なようでいてそうではない。シンプルな、墨絵のような、などと言ったら全く的外れである。invisibleなリズムを感じ取れれば、それは紛れもない西欧伝統音楽でしかない。わざと不均衡なタイム感のリズムだったり、不安定な音程だったりというような、和風な (東洋風な) 部分とは全く相容れないゆえにそれは西欧伝統音楽としかいえないのである。だがそれは定型的な安心感を得られる音楽とは別のルートを辿って生成されてきた。

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たとえば《Nature Pieces》のIIIの後半、126小節〜132小節を見てみよう。8分の5拍子の中に繰り返し現れるリズムパターンは7つの音で構成されていて、5回×7個=35個なので、これを5で割った7小節で完結している。
ところが2小節の無音の後の135小節では、2拍めから 「7つの音のリズムパターン」 が始まっている。139小節では5拍目からだ。

でもリスナーには、こうした 「からくり」 はわからないから、「繰り返すパターンが、漠然とした休止を経て時々出現する」 という風にしか感じとられない。

沈黙の中でカウントされているリズムがある。
161〜165小節は5拍子×4小節の中に7音×3=21音を入れるために、162小節のみ、8分の6拍子になっている。こんな面倒くさいことをするのなら、最初から全体を8分の7拍子にすれば済むはずだ。でもフェルドマンはそうしない。
フェルドマンの沈黙は弛緩していない。それは無駄に込み入った構造なのだ。もちろんこれを無駄と表現するのは言葉の綾であって、いきなり雑な結論に到達したいのなら、だからそれが音楽なのである。


Aki Takahashi plays Morton Feldman (mode records)
Aki Takahashi Plays Morton Feldman




sabine liebner/morton feldman early piano pieces (WERGO)
フェルドマン : 初期ピアノ作品集 (Morton Feldman : Early Piano Pieces / Sabine Lieber , piano) (2CD) [輸入盤]

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コメント 2

mwainfo

「沈黙の中でカウントされているリズムがある」、脱帽です。
by mwainfo (2013-03-21 11:26) 

lequiche

>> mwainfo様

コメントありがとうございます。
無窮動のように音数が多くて音符だらけの音楽も爽快ですが、
休符の多い音楽は音ひとつひとつの意味あいが大きくて、
そして重くなるような気がします。

mwainfo様の記事はいつも楽しみにしております。
これからもよろしくお願い致します。
by lequiche (2013-03-21 14:58) 

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