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世界が寒いこと — ヤン・ガルバレク〈Hasta Siempre〉 [音楽]

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音の記憶は、いつもその時の温度とか空気感とかその場の雰囲気と一緒になって甦ってくるような気がする。それは時によって自室であったり、どこかの店でかかっていたBGMだったり、それともCDショップでふと耳にした新着盤であったりするが、どんな時でも音には居合わせたその場の周囲の記憶が纏いついている。
でも具体的な場所の記憶は消えてしまって、その時に感じていた抽象的な不安感とか不安定な時間の経過だけを覚えていることもある。それは情緒不安定な闇の記憶。

この曲もそうした記憶の中のひとつだ。
ガルバレク/ステンソンの《Witchi-Tai-To》の3曲目〈Hasta Siempre〉。
この曲を最初に聴いたのはどこだったのだろうか。抽象画だと思っていたジャケットを見ているだけで、その暗くうねるようなパッションが追憶の襞の間から滲み出てくる。

ヤン・ガルバレク Jan Garbarek はECM Recordsのスター・プレイヤーの1人で、その独特なサックスの音色に特長がある。キース・ジャレットのクァルテット (いわゆるヨーロピアン・カルテット) に加わった演奏もあるが、それはあくまでキース・ジャレットの音楽であるので、その中でのガルバレクの音は私の耳が受け取る限り、やや普通の音に降下してしまう。
でも自己のグループでの演奏がよいかというと、ともすると自己撞着のループに陥っているように聞こえることもあってちょっとむずかしい。あれもハズレ、これもハズレ、みたいな感じもある。

Hasta Siempre は Hasta Siempre Comandante (アスタ・シエンプレ・コマンダンテ) という、チェ・ゲバラのことを讃えるカルロス・プエブラの書いた曲で、多くの人がカヴァーしている。ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの演奏もあるはず。アスタ・シエンプレとは永遠の別れのときの言葉で、フランス語のアデューと同じだ。

アルバム《Witchi-Tai-To》が録音された頃 (1973年11月) の若きガルバレクは、まるでコルトレーンのような強く芯のある音を持っている。しかしコルトレーンのように熱くなく、それは青白くて冷たい炎なのかもしれなくて、でも青白い炎は赤い炎より高温なのだ。
このアルバムの〈Hasta Siempre〉におけるボボ・ステンソンのピアノはおそらく彼のベスト・トラックだ。ステンソンはサイドメンの時のほうがきらりと光るものを持っているような気がする。
そしてこのマーチングバンドのようなドラム。リズムだけで見ればこれはジャズではないのかもしれない。そうした境界線上みたいな音楽がECMの信条でもあるのだけれど。

Red Lanta, Sart, Dis, Dansere, It’s OK to Listen to the Gray Voiceと次々に聴いてみたのだけれどやはり満足できない。Witchi-Tai-Toを超えるものは無いみたいなのだ。
それはキース・ジャレットとのMy Songであっても。
Witchi-Tai-Toのパーソネルからステンソンをキース・ジャレットに交換するとヨーロピアン・クァルテットになるし、ガルバレクを交換すればチャールス・ロイド・クァルテット (のFish Out of Water) になったりする。ECMの使い回しの妙だ。そうやってだらだらと関連づけて広げていく聴き方はECMへの耽溺に過ぎないのだけれど。それもまたひとつの方法。

ガルバレクの最近の〈Hasta Siempre〉の演奏がYouTubeにあるが、これはこれで年輪を感じさせてくれるし練れているし、いいとは思うのだけれど、でもあの若い頃の切迫感が無くて、ごく普通の Hasta Siempre になってしまっているのがちょっと悲しい。柔らかくなってしまったのはきっと年齢のせいだけではなくて、今の無難さの時代を反映しているようにも思える。


Jan Garbarek・Bobo Stenson Quartet/Witchi-Tai-To (ECM)
Witchi-Tai-To




Jan Garbarek/It’s OK to Listen to the Gray Voice (ECM)
It's Ok to Listen to the Gray Voice




Keith Jarrett/My Song (ECM)
マイ・ソング




Jan Garbarek/Hasta Siempre (Live in Nancy 2004)
http://www.youtube.com/watch?v=T5KYZ2F9IRs
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コメント 2

Hasta Siempre

ライブは端的です。ファンも歳をとって昔を楽しんでるようです。
by Hasta Siempre (2012-11-06 16:30) 

lequiche

>>Hasta Siempre様
なるほど。音楽はいつもいっぱいいっぱいではなく、
余裕があることも必要なんでしょうね。(^^)
by lequiche (2012-11-07 01:31) 

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