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バルナバーシュ・ケレメンの弾くバルトーク [音楽]

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Kelemen Quartet (www.kelemenquartet.huより)

フンガロトンのBartók New Series (いわゆる新全集) は、ダークグリーンの旧全集に較べると格段の進歩があり、それはコチシュに負うところが多く、かえすがえすもコチシュの逝去が残念でならないというようなことはすでに書いた。
もうすぐ彼のオムニバス的な追悼盤が出るようだが、販売元の宣伝文では、バルトークの演奏に対するコチシュのアプローチを 「狂気と兇暴性を見せる凄みにみちてい」 ると書いていて、なんとも刺激的だ。

ただ、この新全集の全容がぼんやりと掴みにくくて、仕様がSACDだったりただのCDだったりするのは仕方が無いとして、そのパッケージには全集としての番号 (つまり本でいえば第何巻か) が振られているのだが、それが明記されている情報がどこにもなくて、いまだに買い逃している盤があったりする。緻密にサーチすればいいのだろうが、そもそも売る気があるのならもっとわかりやすく表記するべきだと思うのだ。

それでこの前、気づいて買ったのがヴァイオリン・ソナタの1番と2番、そして無伴奏の収録されているNo.15なのだが、バルトークのソナタには多くの録音があり、私はいままでテツラフのソナタを偏愛していたのだけれど、このケレメンとコチシュのを聴いてしまうとそれが簡単に揺らぐ。たぶんテクニックとか音楽の構築性とかそういうことではなくて、もっと精神的ななにかなのだと思う。それもコチシュがケレメンに及ぼしている影響があるのだろう。

でも、今回はそのソナタ盤ではなくて、つまりケレメンのヴァイオリンのバルトークに対する 「味」 みたいなのを知るのには、ヴァイオリン協奏曲第2番と2つのラプソディの入っているNo.9が適切なのだと思う。注目すべきなのはもちろんそのラプソディである。
バルナバーシュ・ケレメン (Barnabás Kelemen, 1978-) はこの新全集においてコチシュの信頼を一手に受けているが、その音はコチシュのバルトークに対する視点と非常に似通った面がある。
協奏曲とかソナタのような比較的スクエアな、言葉をかえていえば伝統的で主にドイツ音楽的な作品に比肩させようと考えるのならば、どうしてもその語法にすり寄らなければならないので、その書法もそのような制限を受けているように思える。民族的な特有の音をあらかじめ所有しているという枷をはめようとする中央ヨーロッパ語族からの偏見は、バルトークであっても武満徹であっても同様であった。だがラプソディのような作品の場合は、比較的自由に曲想を構成することができるので、そこにマジャールの、そしてロマ的な熱い思いが濃厚に入って来る。

もっとも、いたずらにマジャールとか民族的なテイストを強調すればそれは俗な音に傾きやすく、それがダメなのではないがバルトークはたぶんそうした音を目指してはいなかったはずである。バルトークがその究極としてリスペクトしていたのはバッハとベートーヴェンであるのは明白であり (つまり私にとっての3Bとはバッハ、ベートーヴェン、バルトークであり)、もっといえば一番スクエアな形式による作品群はそれらへの挑戦であった。
だがそうした曲、たとえばヴァイオリン・ソナタを聴いていても、このケレメンとコチシュのアプローチはすごい。けっして俗に堕しないが、スクエアな書法から外れるように見せかけてぎりぎりでとどまっているような方法論が見えて、それでいて音の一粒一粒が生きている。
それがラプソディの場合だと、もっと全開になってしまうので、でもそれがマジャールの、憧憬を呼ぶべき音なのだ。最も強く感じるのは――それはラプソディにあってもソナタにあっても言えるのだが、リズムの揺れでありその昂揚感である。下世話にもなりかねないアーティキュレーションであり、先の宣伝文の 「狂気と兇暴性」 とはよく言ったとあらためて感じるのだが、しかしバルトークの音は乱暴に強引に爆音で弾いたら決して得られなくなってしまう音である。その作曲者のパッショネイトな影が音の背後に存在する。

このディスクにはそれぞれの曲の異稿も収録されていて、ラプソディ第1番のフリッシュの第2稿、第2番のフリッシュ第1稿、そして協奏曲第2番の第3楽章第1稿とある。

ケレメンは2009年からクァルテットを結成して弦楽四重奏の演奏もしているようだが、wikiによれば (と書こうとしたらja.wikiにはケレメンの項目すらなかったのだが) ケレメンは、イェネー・フバイ→エデ・ザトゥレツキー→エステル・ペレーニ→ケレメンと続く系譜のなかにあり、ケレメン・クァルテットのサイトによればクァルテットの活動も続いているようだ。コンサート・スケジュールを見るとバルトークやベートーヴェンのラズモフスキーなどの曲目があり、そのクァルテットでの演奏も是非ホールで聴いてみたいものである。


Barnabás Kelemen, Zoltán Kocsis/
Bartók: Violin Concerto, Rhapsodies for Violin & Orchestra
(Hungaroton)
https://www.amazon.co.jp/dp/B00L4XN5UE/
Bartok_vK&Rhapsodie.jpg

Barnabás Kelemen, Zoltán Kocsis/
Bartók: Sonatas for Violin & Piano Nos1,2; Sonata for Solo Violin
(Hungaroton)
バルトーク : ヴァイオリン・ソナタ集 (Bela Bartok : Sonatas for Violin & Piano Nos 1, 2 , Sonata for Solo Violin / Barnabas Kelemen (violin), Zoltan Kocsis (piano)) [SACD Hybrid] [輸入盤]




Kelemen & Katalin Kokas play Bartók
https://www.youtube.com/watch?v=XG7r8WJqJI8

Kelemen Quartet/Bartók: String Quartet No.5-V movement
live 2011
https://www.youtube.com/watch?v=PdmxrfQA32M
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