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モルダウの暗き流れに、あるいはしっかりしたリス ― TBSドラマ《カルテット》第9話 [雑記]

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《カルテット》第9話はいよいよラス前です。
実はこの前、野球放送が延びて第8話を見逃してしまい、あとからネットで観ました。ところが途中から別の音楽がかぶさっているひどい動画もあって見直したりしていて、あぁ疲れた。

ドラマの番宣では 「誰が嘘をついているのか」 みたいなキャッチがやたらに使われているけれど、これって 「嘘」 という言葉とはちょっと違うと思うんですよね。「嘘」 という言葉から連想される言葉にその言葉以上の何かが加えられてしまっていて、すごく違和感がある。確かに嘘をついているといえば嘘をついているんだけど、それが罪悪であるということが強調され過ぎていて……。う~ん、うまく言えない。まぁでもTVとか芸能誌とかスポーツ新聞とかそういうものなんだから仕方がないか。

それでドラマとしては第8話からの 「来週へつづく」 がうまくつながっていて、今回もまた、そう来たかというのの連続です。ひっぱりかたがうまいなあ。真紀 (松たか子) が突然真紀でなくなって無名性の仮面をかぶったような不気味な印象を与えるようにしてしまうという手法。
ストーリー自体に興味がある場合は動画でも観ていただくとして、以下は観ていることを前提とした感想です。

ドラマに引き込まれることの重要なひとつが軽井沢の別荘という設定で、この建物と部屋の魅力というのがすごくあると思うんです。つまりドラマを離れて、こういうところで暮らせたらいいなぁというリアリティに満ちている。それでいて、でもそれはドラマだから実際にはあり得ないということも薄々分かってしまう構造になっている。
世間から隔絶された環境というのは推理小説では常套ですし (グリーン家とか)、その秘められた空間は独特の魅力を持っているようで、憧れの対象となり得るのです。
「ノクターン」 もそうです。そういう、ある意味こぉゆぅ理想的なお店があったらいいなぁという雰囲気を持っている。でも真紀が、ノクターンでずっと演奏できるのならいいな、それって願望としては低い? みたいなことを言うシーンがありましたけど、そう、実際はそんなことしてたらちょっとそれは音楽じゃないっていう面もあります。
以前、そういう店で、つまり生ピアノをBGMとしているお店に入ったことがあるんですが、舞台なんかないからピアノを弾いていたって大半の客は音楽なんか聴いていない。がやがやしていて、まさにBGMでしかないです。女性ピアニストだったけど、一生懸命弾いているように装っている影に、なんとなくやさぐれているような風情もある。でも音楽ってモーツァルトの頃からBGMとして発達してきた部分もあるのでそれは仕方がない面もあるんだけれど、でもそうしたポジションに安住してしまったら音楽のこころざしとしては低いわけです。

SAJという記号が、すずめ (満島ひかり) と家森 (高橋一生) との会話のなかで展開されて、それが呼応して真紀と別府 (松田龍平) との応答につながっていく前提になるというのもすごい。SAJかぁ、DAIGOかっ、つーの。
有朱ちゃん (吉岡理帆) は今回もちょっとやり過ぎな楊貴妃とか形容される暴君設定になっているので、ファンの人は観ないほうがいいです。それより坂本美雨の役が、これもまた意外性の勝利というか、そう来たか、でしたね (坂本美雨は坂本龍一の娘です。いちおー、念のため)。

でも有朱の行動っていうのはドラマのなかでの単なる 「いろどり」 のように見えて、実はシビアな一種のアンチテーゼのようでもあり、その雑さ加減、もっといえば乱暴さとか暴力性、攻撃性が周囲の人たちに微妙なストレスとなってずっと残っていくような意味合いをもって設定されてるように思います。
それは世代の違いもあるし、メイン4人への異世代間闘争というか、より言えばヒエラルキー攻撃/挑戦でもあるわけで、それがいまの内向の時代の反映ともなっています。この前、真紀のヴァイオリンを持ち出そうとした有朱と、自分の楽器をすずめに預ける真紀の行動の対比というのも、悪意や憎悪に対する信頼とか愛情のメタファーです。

4人は最後の演奏でアヴェ・マリアを弾き、そしてすずめのチェロから始まるモルダウを弾きます。こういうお店での演奏だから、そんなにむずかしい楽曲を選ぶはずはなくて、いわゆるライト・クラシック限定になるのだろうと想像できますが、スメタナはまさに通俗ですけれど、こういうとき、スメタナとかドヴォルザークとかがまさにハマります。
こうした哀しみというのは、単純だけれど強く心に響くなにかを持っていて、人口に膾炙した有名曲というのは常にそうした俗な部分を併せ持っているはずです。そういう曲を持ってくるのはズルイんですけど、ズルさがなければドラマなんか書けない、のでしょう。

さて最終回がどうなるのか、これは逆に相当なドンデン返しみたいなのがないと期待外れになってしまうから作家にとってはむずかしいかもしれませんね。でも推理小説と同じで作家は倒叙法で考えているんだからそうでもないか。

穂村弘が、「あるいは」 の入ったタイトルはカッコイイと書いていたんです。「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」 とか。おぉx、そうかぁ。それで早速やってみました。前と後の関係性が支離滅裂のように思えるかもしれないですが、それで正解です。
でも全く関係ないように思えるリスの逸話は、《北の国から》のキタキツネと同じ効果をもたらしています。

     *

《03月16日追記》
回想場面に出て来た真紀の母は山本みずえ (坂本美雨) という演歌歌手、そして真紀の本名は山本あきこ [漢字不明] とのことでしたが、来杉有朱役の吉岡里帆が映画《明烏》に出演したときの役名が 「山本明子」 なのだ、とtwitterにありました。つまり真紀と有朱の相似的暗合が存在するわけです。


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