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ジャズマスターの蠱惑 ― Rei そして大村憲司 [音楽]

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Rei

『ギターマガジン』2017年4月号の特集は 「恋する歌謡曲。」 というタイトル。だがその内容は雑誌の性格上、全盛期の歌謡曲のバックで演奏したギタリストについてである。スタジオ・ミュージシャンあるいはツアーのサポート・メンバーとしてのギタリストの人たち。
キャンディーズとかピンク・レディは歌謡曲なのであって、J-popではない。もちろん、J-popとして、ひとくくりにすることもできるが、その頃の演歌をも含めた楽曲は、歌謡曲と形容したほうがしっくりする (しかし、それにしても各記事のトップにあるこれだけ似ていない歌手のイラストというのも最近は珍しい。わざと昭和の雰囲気を出そうとしたのだろうか)。

雑誌の最後のほうのページに、広告を兼ねたようなエピフォンの記事が掲載されていた。ギターを試奏しているのはReiという、24歳のギタリスト&シンガーソングライターである。早速、動画サイトで検索してみた。ライヴの動画とPVとがあったが、PVはあまりにシンプルで様式的で、かえって彼女の本質が見えにくいように思われる。対してライヴは尖鋭だ。
ピンクのジャズマスターを弾きながら歌う。歌は、ちょっとどぉ? という感じのときもあるが、ギターの鳴らし方はラフに見せていて、相当に上手い。
それにジャズマスターは特殊だ。ストラトやテレキャスなら正統派だが、ジャズマスターはスタンダードから 「外した感」 があって、少しスノッブで、ややワイルドで、かなりダークな感じを持ってしまう。もともとはそんなタイプのギターではなかったはずなのだけれど、ガレージパンクからニューウェイヴ、オルタナといったミュージシャンが好んで使ったりするうちに、そういうイメージになってしまった。Reiは他にブルーのリッケンバッカーも使うが、やはりピンクのジャズマスターのほうがキャラが立ってみえる。

それではエピフォンの広告記事に連動している動画はどうかというと、それはエピフォンのマスタービルト・センチュリー・コレクションという、比較的廉価なエレアコのプロモーションであるが、アコースティクな楽器のためか、ブルース一色である。タイプの異なる楽器を試奏して、その音の特徴とか弾いた印象をコメントしているのだが、明快で堂々としている。楽器によって弾く時間やコメントに長短があるのは好き嫌いが現れているのだろう。
でも、ほんの数フレーズなのに、すごく渋かったり、あるいはロバジョンまで弾いてみたり、プロモーションとしてはなかなかよくできている。
大きめのボディの楽器に対して、女の子にはサイズが大きめなんだけど、そのちょっと大きめなのを女の子がガシガシ弾くのがカッコイイみたいなコメントをしていて、思わずそんな言葉にだまされて買ってしまうひとだっているような気がする。

さて、歌謡曲特集だが、ギタリストのひとりとして大村憲司のページがあった。大村憲司は、まず赤い鳥に参加、その後幾つかのバンドを経て、YMOが売り出し中の頃のサポート・メンバーとして知られる。YMOの3人に矢野顕子、大村憲司、それに松武秀樹の6人で、海外で精力的なツアーをした。ギターは当初、渡辺香津美であったが、途中で大村に変わっている。
だが私のなによりも偏愛する大村は、大貫妙子作品におけるギターワークにある。特に《A Slice of LIfe》(1989) は最もほの暗い表情の大貫を感じさせる美しいアルバムである。ロック系の曲を大村、クラシカルな曲をジャン・ムジーが担当。大村の創りだした音は、やや深いリヴァーブのなかに佇むグループ・サウンズの頃のような懐かしい音色を持ったギター。
〈もういちどトゥイスト〉はまさに古風なステップを連想させるツイストで、それは〈果てなき旅情〉や〈ブリーカー・ストリートの青春〉と並んで郷愁を誘う情景に満ちている。具体性にもう一歩届かない分だけ、過去は観念的な神話のようにいつまでも遠いままだ (この頃の大貫妙子のことはすでに書いた →2014年08月19日ブログ)。

いつだったか、YouTubeで偶然見つけた動画がある。それはインストゥルメンタルなギターが日本で大ブームの頃、つまり60年代のヴェンチャーズなどの楽曲によるいわゆるエレキ・ブームを回想する1997年09月02日のコンサートで、タイトルは 「僕らはエレキにしびれてる」 とのことである。萩原健太が司会をしている。その最後に大村憲司が演奏をしているが、使われているギターはジャズマスターであった。ヴェンチャーズの〈Surf Rider〉とシャドウズの〈Spring is Nearly Here〉の2曲、〈サーフライダー〉はサーフィン・チューンのなかの1曲で、コピーはテクニカルなアーミングを含めて完璧であり、何よりその選曲がマニアックである。サーフィンといえば普通なら〈Piprline〉か〈Wipe Out〉なのに (〈Spring is Nearly Here〉ではストラトに持ち替えている)。
〈サーフライダー〉はアルバム《Surfing》(1963) の収録曲で、この頃だとギターはたぶんモズライトではなくまだフェンダーのはずで、ヴェンチャーズは後年、ガレージ系が流行したときその系譜のなかで再評価されたが、そのブーミーな音は当時のエフェクト・レヴェルからすれば非常に際立っていた (wikiによればモズライトの使用はアルバム《In Space》(1964) からとあるが《Surfing》から使用していたとする情報もあり、正確な時期は不明である。尚、実は〈サーフライダー〉は《Surfing》より前のアルバム《Mashed Potatoes and Gravy》(1962) に〈Spudnik〉として収録されていた曲のタイトルを変更したもので、だから本来はマッシュポテト [というダンスのステップがあったとのこと] の曲である。スパドニックとは当時のソ連の人工衛星スプートニクのこと。またリリース年についてはwikiを参照したが、オフィシャルサイトはwikiと異なっている)。

山下達郎は、ヴェンチャーズが日本のエレキ・ブームというくくりの中でだけのレジェンドとして過小評価されるのを危惧していて、また初期に日本で出されたCDの音の出力レヴェルが低いと言い、もっとVUが振り切れるくらい高くて良いのだ、と自らプロデュースしてリリースさせた経緯がある。
アナログ・テープに記録された太い音がデジタルで痩せてしまうのが許せないということだろうが、何より当時、ごく短い期間であったにせよ、歌を伴わないインストゥルメンタルが日本で大流行したという現象は特異である。

『ギターマガジン』の記事によれば、大村憲司はやや狷介な性格であったようにみうけられるが、それは音楽に対する理想が高かったことにもあるのだろう。そしてギターは何よりも音色である。大村憲司の音は、そこに単なる音楽以上のなにかを包含している。
しかし残念ながら大村は 「僕らはエレキにしびれてる」 コンサートの翌年、病没してしまう。享年49歳であった。

ジャズマスターを弾くギタリストといえばもう一人、マイ・ブラディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズがいる。シューゲイザーのカリスマであるマイブラだが、そのアルバム《Loveless》のジャケットはジャズマスターだと思えるし、ああした音を出すために有効なヘヴィーさをもジャズマスターは兼ね備えているように思える。轟音のなかに静寂がある。これはメタファーではない。(マイブラとかコクトーズのことを書くと、なぜかアクセス数が高い。ありがとうございます。マイ・ブラディ・ヴァレンタインはたとえばここ →2013年04月19日ブログ。コクトー・ツインズ→2013年08月08日ブログ。でもたいしたことは書いてないです)

以前、仕事でお世話になった先輩で、昔、ヴェンチャーズなどを聴いて (弾いたりもして) いた人がいた。その人がジャズマスターを買ったという話を聞いた。モズライトでなくジャズマスター。う~ん、わかってますね。


ギターマガジン2017年4月号 (リットーミュージック)
Guitar magazine (ギター・マガジン) 2017年 4月号 (CD付)  [雑誌]




Rei/ORB (Space Shower Music)
ORB




大貫妙子/A Slice of Life (midi)
スライス・オブ・ライフ(紙ジャケット仕様)




My Bloody Valentine/Loveless (CREAI)
LOVELESS




Rei meets Epiphone Masterbilt Century Collection
(下にスクロールすると動画あり)
http://www.digimart.net/magazine/article/2017031302445.html

Rei/black banana (live)
https://www.youtube.com/watch?v=rcWNjx70F5U

Rei Official: Space Shower News
https://www.youtube.com/watch?v=x6Kc15lh4nM

大村憲司/Surf Rider~Spring is Nearly Here
live 1997.09.02
https://www.youtube.com/watch?v=yh5N7BxSyi4

MyBloody Valentine/To Here Knows When
live Fuji Rock Festvial 2008
https://www.youtube.com/watch?v=3DEnwUAzPG4
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末尾ルコ(アルベール)

わたしティーンの頃(笑)、一瞬パンクバンドのヴォーカルだったことがあって、あ、アマのへっぽこですけど、なぜヴォーカルかと言うと、「声がデカい」「何も楽器ができない」の明快な2点が理由で、だからずっといろんな音楽を聴いてきている割には楽器の技術的なことはかなり分からず、今回のお記事も幻惑されつつ、(いいなあ、よくお分かりで)という気持ちで拝読しております。Reiという人は知りませんでした。またしても素敵な音楽を紹介してくださいましたね!これはカッコいいわ。しばらくReiの探究で楽しめそうです。最近はタル・ウィケンフェルドを探究していました。ところでこのReiの顔、わたしは軽々に「誰かが誰かに似ている」と言うのは好きではないのですが、しかし『ブラタモリ』で人気のNHK近江友里恵アナに似ているような。
大村憲司の動画も視聴させていただきました。それに関して、わたしにはこのお記事に書かれている以上のことは何も書けませんが、大貫妙子のアルバムはとてもよく聴いていました。ちなみに最近かなり「歌謡曲」の探究もしつつあります。 RUKO


by 末尾ルコ(アルベール) (2017-03-19 01:23) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

おぉ、それは素晴らしい!
パンクはそういうのが真情なんです。(^^)

ギターとか楽器は基本的には音が出て弾ければいいんですが、
でもだんだんとあれこれ言うようになるとキリがないです。
こうやって書くだけならいいんですけど、
実際に購入するとか、実行にうつすのは大変ですね。
それと、なによりもギターを持った佇まいが重要だと感じます。
椎名林檎とか鮎川誠は持ってるだけでカッコイイ!
カッコさえよければ弾けなくてもいいんです。
パンクでしょ?(^^;)

Reiちゃんはエレアコでブルース弾いてるのもいいんですけど、
この破壊的なエレキギターのほうがガーンと来ます。
近江友里恵アナ似てますか? 今度気をつけて見てみます。

最近の齢をとったノーキー・エドワーズが
サーフライダーを弾いている動画があったので
聴き較べてみましたが、
たぶん大村憲司のほうが上手いです。(^^;)
以前、北島健二がジェフ・ベックの
Cause We’ve Ended as Loversをライヴで弾きましたが、
そのときも、ベックより上手いと思いました。
まぁそんなもんです。

タル・ウィルケンフェルドは
オリジナルなオーストラリア盤が欲しいんです。
が、オーストラリア盤って高いんですよ。(^^;)
by lequiche (2017-03-19 01:59) 

Enrique

素晴らしい若い才能ですね。
具体的な評価はできませんが,すでに堂に入っている感じはあります。
by Enrique (2017-03-19 07:16) 

lequiche

>> Enrique 様

やはりそう思われますか。
ひとつひとつの音がくっきりとしていて
聴いていて、気持ちがいいです。
ギターって、いいですね。(^^)
by lequiche (2017-03-19 20:29) 

Flatfield

ファッションといいポスト・ジミヘンみたいなかんじですね。 チャーとかRobin Trowerとか思い出しました。
by Flatfield (2017-03-20 23:04) 

lequiche

>> Flatfield 様

ジミヘン!
そうかぁ、気がつきませんでした。
洗練されてるけど服にサイケな頃のラインがありますね。
ロビン・トロワーはプロコルハルムですね。なるほど。

ただ、ジミヘンほど粘っこくないようにも思います。
それとアコースティクギターの場合は
随分アプローチが違ってリズムがパシッとしてるのが
気持ちいいです。(^^)
by lequiche (2017-03-21 00:04) 

NO14Ruggerman

大村憲司さんお亡くなりになっていたのですね。しかも20年近くも前に…
時代に取り残され化石化していることを実感しました。
by NO14Ruggerman (2017-03-21 19:16) 

lequiche

>> NO14Ruggerman 様

年齢的には早過ぎました。
残念ですが仕方がありません。
時の経つのはあっという間ですね。
でも音楽は永遠に残ります。
by lequiche (2017-03-22 00:33) 

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