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浦沢直樹の《漫勉》— 清水玲子 [コミック]

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NHK-2の浦沢直樹《漫勉》のシーズン4の1回目〈清水玲子〉を観る。
まず浦沢直樹が道を歩いているシーンがあって、清水玲子の仕事場兼自宅に入っていくのだが、その仕事場がすごい。「これだけきれいな仕事場は、今までで初めてじゃないかしら」 というのに笑ってしまう。私はすでにこの整理整頓されたモデルルームみたいな清水の部屋の写真を見たことがあるので、あ、これこれ、としか思わなかったが、初めて見たら衝撃に違いない。一般的にいって出版にかかわる業種は作家も編集も、どこもぐちゃぐちゃというのがお決まりの情景なのだから。
清水玲子の透明感とか繊細さとか緊張感といったものがすべてこの仕事場の姿に反映しているのだというのが実感できる。決してあわてて片付けましたとか、このときだけきれいにしました、みたいなのと全然違う純度の高さが感じ取れる。

作業の邪魔にならないように仕事部屋に定点カメラを設置して撮影した映像をもとにして、清水と浦沢が語るというパターン。8人いるというアシスタントの部屋が一瞬だけ映るが、ほとんどは清水の作画映像だけである。
メガネをかけてマスクをして、ペン入れのときには白手袋をして、髪の毛が視界に落ちてこないようにガードして、机の上は作業するのに必要なものだけ。この風景と清水の表情から私が最初に想像してしまったのは外科手術をするドクターSであって、最も良い環境で最大限に優れたものを仕上げようとする姿勢が感じ取れる。

ライトテーブルでネームからエンピツでトレースし、でもそれが気に入らないと、ウラ側に描き直して、またオモテにひっくりかえして、そのウラ側のラインをオモテ側から再びトレースして最終的なラインを決める。ここまではエンピツ。太い線はエンピツで、細い線は0.3mmのシャーペンを使うのだそう。そしてそれにペンを入れるのだ。
清水のネームは、その段階ですでに細かいところまでかなり描き込まれているのにもかかわらず、そこからの下描きを経て、ペン入れまでの工程が繰り返し緻密に続く。つまり同じ絵を何度も描くのだ。だがその時間は、ナレーションの通りだとすれば、その内容の細かさに比して短時間である。それだけ手慣れた作業だということだろう (作業の実際はNHKのサイトに、放映されたのと同じ動画があるので、下記リンクから参照することができる)。

ペン入れは芸術的で、しかも確信的だ。美しい曲線が次々に迷いなく描かれてゆく。描きやすい角度を求めて、原稿用紙をくるくると回して描く。でも描き込み過ぎないようにしているという。浦沢も、上手い人は、つい描き込み過ぎてしまうものだが、清水の絵はその前で踏みとどまっていて軽いと評する。清水は、内容が重いのに絵も重いと、重くなり過ぎるからと応える。最小限の線で踏みとどまれるかどうかが重要なのだ。これはマンガに限らず、普通の絵画にもいえて、どんどん描き込み過ぎてしまうとかえってよくないことは往々にしてある。どこで踏みとどまるか、どこで終わりにするか、なのだ。
それはつまり必要最小限の線なのであり、清水は 「風通しのよさ」 という表現をしていた。

そして細かい修正。どうしても気に入らない線を描き直す。だが、はっきりいってシロート目にはそんなに違わない。でも作家にとってはとんでもなく違う線なのだ。それは作家本人にしかわからないこだわりなのである。仕事だと割り切るのならばそれはどちらでもいいことなのだが、芸術とするのならばそれは最も重要なこだわりである。マンガは大衆的で打算的なマスプロダクトなジャンルでありながら、アートとしてのこだわりがなければならない。それは矛盾しているタスクなのだ。もっともそこまでのこだわりはごく一握りの人たちによって維持されているようにも思える。

清水が影響されたとして口にしたのはもちろん萩尾望都であるが、大友克洋の絵にも影響されたと語る。特に『秘密』などのヴァイオレンス描写には、大友の描き方は恰好のお手本である。
ただ、初期の、まだ売れていない頃の苦労話みたいなのはほとんど無い。歌舞伎を撮ったビデオを静止画像にして、その静止時間が解けないうちにデッサンするというプラクティスをしていたというエピソードも、絵が上手くなりたいという積極的な願望であることのほうが強い。貧しくて食べ物がなかったみたいな泣き言はないのだ。でも清水に、きっとそこまでの状態はなかったのだろうと思ってしまう。

絵が上手くなりたい、という気持ちは清水も浦沢も同じで、共感し合っていた。ネットの書き込みを見ると、こんなに上手い人がより上手くなりたいと思ってるんじゃ、私にはとても無理、みたいな感想が書いてあって、でもだからそれを乗り越えるくらい努力しないと一流にはなれないんだろうなぁとあらためて納得する。

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清水玲子/秘密 season 04 (白泉社)
秘密 season 0 4 (花とゆめCOMICSスペシャル)




NHK・番組関連グッズ
http://www2.nhk.or.jp/goods/pc/cgi/list_p.cgi?p=3310

NHK・浦沢直樹の漫勉 シーズン4〈清水玲子〉
http://www.nhk.or.jp/manben/shimizu/
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コメント 18

hatumi30331

仕事場は、性格が出るね。^^
一流は違うのかもね。

マンガ描ける人尊敬する!^^
by hatumi30331 (2017-03-06 20:04) 

lequiche

>> hatumi30331 様

性格なんでしょうね。
きれいにしておかないと気が済まないというのか。

マンガが描ける人も尊敬に値しますが、
私は部屋がきれいな人も尊敬します。(^^;;;)
by lequiche (2017-03-07 01:05) 

末尾ルコ(アルベール)

あ、これは録画しようと思って忘れていた番組です。再放送があれば、録画しなくては。清水玲子の漫画は何作か買ってますが、まだ感想が書けるほど読み込んでなくて。そのうちじっくり読んでみます。大友克洋の影響というのが意外で興味深いですね。大友克洋、多少なりとも文化芸術に興味のある者は「必読」という時代がありました。凄い影響力でしたね。でもいまだに一番好きなのは『童夢』です。大友は実写映画の監督もしてますが、これはよくありませんでした。この番組、池上遼一の回が妙に興味深かったですね。池上遼一って、画はとても上手いのですが、ストーリーは目茶目茶という作品が多く見られると思うのですが、やはりあの画だけでも大なる敬意を払われているのだなあと。ちなみにわたしの部屋は常に大パニックです。そう言えば中学時代、わたしのクラスでは日野日出志が大ブームで(もちろん男だけ 笑)、一部生徒が日出志パロディ的漫画をノートなんか描いていまして、わたしもその一人だったんですが、画が下手過ぎて自分で見ても楽しかったです(笑)。   RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2017-03-07 02:04) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

残念ですが再放送もすでに終了してしまいました。
リンクしたページに作画している動画がありますので、
せめてそれをご覧ください。
http://www.nhk.or.jp/manben/shimizu/
尚、6月にNHKからブルーレイ&DVDが出るとのことです。
清水先生の御著書をお札がわりに神棚に置いておけば、
部屋がきれいになるかもしれません。(ウソです ^^;)

大友の童夢やAKIRAは人間だけでなく
SF的な風景のパースペクティヴを描くのに参考になると思います。
映画は観ていませんが評判が悪かったことは知っています。(^^;)
池上遼一は確かに絵は上手いですね。
昔の映画館の看板絵の最高峰って感じもありますが。(^^;;;)
日野日出志という人は知らない、と思って今検索したら、
あぁ、この絵ですか! 名前は知らなかったけれど絵は知ってます。
ポップな楳図かずおですね。
by lequiche (2017-03-07 02:31) 

向日葵

確か「留守録」したと思ったら「出来ていなかった」ので、
多分近日中の深夜に「再放送」があり、そっちを「留守録」
したのではないだろうか・・??

と希望的観測。。

「清水玲子さん」大好きです!!

お部屋が嘘のように整理整頓されて実に綺麗!!

さもありなん。。
なんとなく「清水玲子さん」ならわかる感じです。。

かなり年下の筈ですが、話の組み立て方や絵の上手さ!
どれをとっても大ベテランの域!!

萩尾望都さん、達「花の24年組」はワタクシですら、
「一世代」上ですから、清水さんはワタクシより更に
一世代どころか二世代ほど下なんでしょうか・・??


******************

話は違いますがー。(lequiche さんのブログで勝手に
          ごめんなさい!!)

「津雲むつみ」さん、亡くなられたそうですね。。

「俺は男だ!」の原作者、として位しか、今では知る人も
少なくなっているかもー、ですが、本格派で実に堅実、
真面目そのものの作風でした。

一般的な少女漫画に比べて、少しお姉さんぽくて、
ワタクシは好きでした。

もう少し詳しい情報をご存知の方いらっしゃいましたら
是非是非教えて下さい。
by 向日葵 (2017-03-07 02:34) 

green_blue_sky

仕事場の緊張感が違いますね(^_^;)
うちでは子のような緊張感がないです。。。
by green_blue_sky (2017-03-07 08:08) 

ぴーすけ君

清水玲子さんの絵、繊細な線ですよね~。

by ぴーすけ君 (2017-03-07 11:57) 

lequiche

>> 向日葵様

そうですか。
うまく録画できてるといいですね。

清水玲子さんは1963年生まれですが、
年齢とデビューとは必ずしも一致しませんから
なんともいえませんが、
岡崎京子さんが同じ1963年生まれですね。
でも作品的には岡崎京子はちょっと後かな?

少女マンガだと、成田美名子とか川原由美子などより
同時期かちょっと後くらいという感じじゃないでしょうか。
矢沢あいは、清水玲子よりさらに後かなぁ。

少年マンガだと、桂正和とか荒木飛呂彦あたりが
清水玲子と大体同じ頃に出て来たんじゃないかと思います。
青山剛昌が清水玲子と同じ63年生まれですね。

津村むつみさん、正統派ですね。
ニュースで検索したらお亡くなりになったとのこと。
いのちのはかなさを感じますね。
ご冥福をお祈り申し上げます。
by lequiche (2017-03-07 14:36) 

lequiche

>> green_blue_sky 様

ですね〜。
私も緊張感が全然ないです。
も少し緊張感持って仕事しないと、と反省です。(^^;)
by lequiche (2017-03-07 14:36) 

lequiche

>> ぴーすけ君様

繊細ですね。驚くほどのライン!
それでいて『秘密』にはちょっとすごい描写もあったりして。
クリストファー・ノーランの《インセプション》も
そういう系ですが、でもちょっと違いますね。(^^)
by lequiche (2017-03-07 14:36) 

sakamono

こういう職人の仕事ぶりを見るのは、とても興味深いです。
先日はありがとうございました。あと、もう少し肉が食べたかったですね^^;。
またの機会にも、よろしくお願い致します。
by sakamono (2017-03-07 23:10) 

うっかりくま

見たいと思っていたのに見逃しました。。
清水玲子さんの絵の綺麗さについてよく聞く気がします。
成田美名子さんは「あいつ」「みき&ユーティ」の頃から
愛読していました。能も一時期はまったので「花よりも~」
も読みたいのですが最近の本屋は立ち読みできなくて困る。。
by うっかりくま (2017-03-08 01:24) 

lequiche

>> sakamono 様

確かに職人的な技術を感じますね。
この前は時間が無くて残念でしたが、
また次の機会を見つけましょう。(^^)
by lequiche (2017-03-08 04:02) 

lequiche

>> うっかりくま様

それは残念でした。
NHK-2は、いつの間にか放送済ということがよくあります。(笑)
清水玲子は、見ただけですぐにわかる特徴的な絵ですし、
その透明感はすごいと思います。
潔癖と表現してもいいくらいのきれいさです。

おおっ、成田美名子! そうですか。
デビューのときから完成度の高い画風ですね。
やはり透明感があって。

『花よりも花の如く』には興味があります。
かなり本格的な作品のようですが、でもまだ読んでいません。
私は能楽の知識はほとんどありませんが、
以前読んだ唐木順三の『千利休』のなかに
世阿弥について書かれた部分があり大変参考になりました。
ざっと書いただけですが。
http://lequiche.blog.so-net.ne.jp/2012-05-30

世阿弥を描いた木原敏江の『夢幻花伝』というのを思い出しました。
少女マンガ的ミーハーを装いながら、
世阿弥の思い描いた能楽の本質を突いていたと思います。
by lequiche (2017-03-08 04:04) 

リュカ

漫勉、この番組好きです。
録画して観まくりました^^
この番組みたあとは、無性にペンを持ちたくなるのー(笑)
いちおうね、持ってるんだよ。
Gペン 丸ペン かぶらペンww
by リュカ (2017-03-08 13:15) 

lequiche

>> リュカ様

おおお。そうだったんですか!
ということは何か作品がありますよね?
今度、是非拝見したく、よろしくお願い致します。m(_ _)m
by lequiche (2017-03-09 02:39) 

向日葵

こんなに日が経ってコメント入れて良いのかどうか。。
迷いましたが、他の記事ではもっと申し訳ない気がして。。

「少年の名はじるべール」、読みました!!
図書館で借りた本でとりあえず読みましたが、
竹宮さんの新人時代~大人気作家になる過程が事細かに、
竹宮さん自身の側から書かれていて、とても興味深く、
かつての自分とのオーバーラップもあり、実に楽しく、
かつ、興味深く一気に読みました!!

読んでいる最中から、
「これはもう買うきゃない!」
と、近所の某大手書店に電話を入れ、在庫を確認して貰い、
そのまま取り置きをお願いし、ようやく昨日、取りに行くことが
出来ました。

図書館の借りた本で既に読み終えていますので、
買ったばかりの方は暫く放っておくようになるかも、
ですが、あの本は「竹宮さんの記念碑」としても
どうしても手元に置いておきたくなってー!

lequicheさんなら、こんな気持ち、わかって頂けますよね・・?


by 向日葵 (2017-04-23 08:56) 

lequiche

>> 向日葵様

全然問題ないです。
他の記事でも問題ないです。
私のブログはひとつなぎの大痴呆ですので。
(ONE PIECEかっ![大秘宝のシャレです] ^^)b

お〜、そうですか。
特に 「自分とのオーバーラップ」 って何となくわかります。
竹宮先生は一見、すごくエンターテインメント性を備えていて
ごくビジネスライクに作品が描けているような印象があります。
でも実はいろいろとコンプレックスがあって、
それを今回の本では非常に真摯に書いているんじゃないか
と思います。
こんなに書いちゃっていいの? というくらいですけれど、
あらためて24年組の相互関係のすごさというのを感じます。

私は図書館とか、ネットのクラウドとか、
共有環境というものを信用していませんので、
本もCDも全て買います。手元にあるということは
所有欲に過ぎないのかもしれませんが重要ですよね。

竹宮先生は、たとえば最もエンターテインメント性の高い
『私を月まで連れてって!』でも、その中に孤独を感じます。
ニナ・フレキシブルはニンフェットですが、
それでいて非常にオトナの部分を見せるときがあって、
SFを多く読んでいる人だと、
こうしたキャラから醸し出される孤独感が
よくわかると思うのです。
それは萩尾望都の『11人いる!』のフロルでも同様です。
by lequiche (2017-04-23 12:54) 

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