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バティアシュヴィリのシベリウス [音楽]

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Lisa Batiashvili

音楽とは必ずしも技巧とか構成だけで測れるものではなくて、「こころかなしきときは」 むしろもっと原初的な情動がその感覚を左右するものなのである、というような意味のことと同じことを、尾崎翠と川上未映子とエル (ラファエル・ラナデール) に絡めて、かつて書いた憶えがある (→2013年11月06日ブログ)。

HMVのサイトを見ていたら、最近リリースされたDGのリストのなかにバティアシュヴィリのシベリウスがあって、え? またシベリウス? しかもバレンボイムと――などと思ってしまったのだが、でもバティアシュヴィリにとってシベリウスは、まさにオハコなのかもしれないし、私にとって最もシベリウスの輪郭を際立たせて聴かせてくれるのは、断然バティアシュヴィリのような気がしている。
1回目のシベリウスの録音は、2006年、サカリ・オラモ/フィンランド放送交響楽団とのライヴを収録したSONY盤で、それまで聴いたシベリウスのなかで最もシンパシィを感じる演奏だった。
リザ・バティアシュヴィリはグルジア (というか最近の言い方ではジョージア、彼女自身もそう発音している) 出身のヴァイオリニスト。グルジアという名前から思い出すのはシェンゲラヤの映画《ピロスマニ》のことで、最近、映画もオリジナル版で再上映されたらしいが残念ながら観ていない。私の持っているのはロシア語版の古いDVDだけだ (もうすぐブルーレイ&DVDが出るけれどこれは買いです)。

シベリウスはスウェーデン・BIS盤から《The Sibelius Edition》という全集が出ていて、分売なのだけれど、とても枚数が多いので買い切れなくて挫折してしまったのだが、生誕150年とのことで今度は日本盤がリリースされるとのこと。でも分売ではなく一括セットの全集なので、やっぱり手が出にくい。
とはいえ、この頃、流行というほどではないのだろうがシベリウスを多く耳にし、なんとなくシベリウスが身近になってきているような気がする。以前はシベリウスといえば 「北欧だから冷たい感じ」 みたいな安直で短絡的な感想をよく見聞きしたが、さすがにそうしたレヴェルの認識もなくなりつつある。

あまたのヴァイオリン協奏曲のなかで、シベリウスのそれは傑作である。冒頭から、オーケストラがそんなに鳴っていないのに、ヴァイオリンだけでがんがんいってしまうのがやや特異であるけれどトリッキーではない。シベリウスはこの1曲しかヴァイオリン協奏曲を書かなかったが、自身がヴァイオリニストでもあったため、技巧的にもダブルストップが多用されていてかなりむずかしいように思えるし、変奏部分が非常に緻密に書かれていて美しい。
木管 (特にクラリネットとファゴット) の扱いがうまいし、たとえば第1楽章でも、一度ヴァイオリンのソロになってから、2/2が6/4にかわって再びオケが入ってきて、その後、Molto moderato e tranquilloでまた弾きはじめ、すぐにLargamenteとなりソロ・ヴァイオリンのダブルストップが続くとき、その下にさりげなく入ってくるヴィオラのソロとか (下記にリンクした2007年の動画で見ると1本目の4’46”から)、その後、2/2に戻る直前 (7小節前) に、下のほうでチェロとコントラバスのきざむピチカートとか、この軽くて暗い感触はなんなのだろう。
第3楽章の、オケのきざむリズムに乗ってソロ・ヴァイオリンが躍動するスリリングさは、常に郷愁をさそう原初的な懐かしさのかたまりであって、北欧の冷たさというようなおざなりの通俗表現とは対極の熱いほとばしりを感じる。それはたとえばドヴォルザークに感じるような、過去の記憶のどこかに忘れてきたような郷愁に似ている。

このバティアシュヴィリのシベリウスは、たまたま借用したCDで、借りたそのときはそんなに理解できなかったのだが、最近聴き直したらこの表現の深さにやられてしまった。たとえばチョン・キョンファの若い頃のシベリウスも素晴らしいのだけれど、ところどころ違和感のある個所があって、それはほんのちょっとしたタイミングとか強弱の違いなのだけれど、私にとっては疑問だった。その部分がバティアシュヴィリではことごとくクリアされていて、つまりそれは上手下手ではなくて、シンパシィの波長が合っているかどうかなのだと思う。

YouTubeにはサカリ・オラモとの2007年の演奏と、2015年のアントニオ・パッパーノとの演奏がある。2015年のローマでの演奏のほうがさすがに手慣れた感じは受けるが、逆に若い頃の、CDと同じ指揮/オーケストラによる、闇雲にいってしまう新鮮さがかえって気持ちいい。

それと2006年リリースのCDに入っているリンドベルイの協奏曲は、バティアシュヴィリに捧げられた曲であるためか、曲も演奏も出色で、その分、バレンボイムとのチャイコフスキーのカップリングよりポイントが高く思える。でもチャイコフスキーはチャイコフスキーで聴いてみないとわからないのであるが。


Lisa Batiashvili/Sibelius & Lindberg: Violin Concerto (SONY)
VIOLIN CONCERTOS




Lisa Batiashvili/Tchaikovsky & Sibelius: Violin Concerto
(Deutsche Grammophon)
VIOLIN CONCERTOS




Lisa Batiashvili/Sibelius: Violin Concerto
Sakari Oramo - Conducto
Helsinki, Finlandia Hall 11.05.2007.
https://www.youtube.com/watch?v=XCOZPFIx7AU
https://www.youtube.com/watch?v=7-w96Q_7ad4
https://www.youtube.com/watch?v=TZw-ihP29TQ
https://www.youtube.com/watch?v=cSRUCRMr9NM

Lisa Batiashvili/Sibelius: Violin Concerto
Orchestra Sinfonica Accademia Nazionale di Santa Cecilia
Antonio Pappano, conductor
Auditorium Parco della Musica, Roma, 24 January 2015
https://www.youtube.com/watch?v=n4aOgRjqHrc

オマケ
Franz Schubert: Rondo Brilliant for violin and piano in B minor
https://www.youtube.com/watch?v=nfGK2Se3Rnk
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コメント 20

末尾ルコ(アルベール)

フランス女優のような写りですね。今、視聴しながらこれを書いています。ジョージアという発音が正式なものにしても、どうしても米国のジョージアを連想してしまい、逆に「グルジア」という呼び方の方に歴史的深みを感じてしまうのがおもしろいです。映画『ピロスマニ』の映像も素晴らしかったですよね。ピロスマニ自身の絵も好きですね。NHK FMのクラシック番組をちょいちょい聴いていますが、シベリウスはけっこうかかっている印象。ドラマティックな旋律はいつでも聴き込んでしまいます。そう言えば、この前リンクしてくださっていたポゴレリチをも視聴してみました。とてもエモーショナルな印象を受け、「観応え」ある映像でした。バティアシュヴィリの映像もまたじっくり視聴させていただきます。 音楽と「情動」というのはとても興味深い関係で、昨夜はジェフ・ベックのバラードに妙にはまってしまいました。 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2017-01-05 08:50) 

リュカ

あけましておめでとうございます^^
今年もなかなかコメントできませんが(難しくてww)
じっくり読ませてもらいますね♪
オフ会でまたお会いしましょう!
今年も宜しくです。
by リュカ (2017-01-05 09:25) 

NO14Ruggerman

遅ればせながら新年おめでとうございます。今年も記事を楽しみにしております。
ジョージアは音楽分野では馴染みがありませんが、相撲やラグビーで活躍されているので親しみを感じております。
by NO14Ruggerman (2017-01-05 09:49) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

ナマの本人とはちょっと違うふうに見えますが、
この一連の写真を撮ったときの彼女の雰囲気が好きなので
チョイスしてみました。
なるべくありふれた写真でないショットを選びたいので、
いつも悩みます。

たしかに、ジョージアって缶コーヒーみたいで、
軽いし、あまり良い感じがしませんね。
ピロスマニは映画として素晴らしいです。
カメラをがちゃがちゃ動かせばいいというものではない、
というアンチテーゼです。

シベリウスはやっぱり流行なんでしょうか?
ポゴレリチのアンコールもやや唐突にシベリウスでしたが、
やたらに最近シベリウス、って感じがしてしまいます。

ファウストとかハーンとかムターとか、
そのへんはファンが多いし正統派ですから、
まぁいいかな、と思っています。
私はちょっと毛色がかわっていて、
辺境から出て来た人 (笑) などに惹かれます。

ジェフ・ベックのバンドにいた女性ベーシスト、
タル・ウィルケンフェルドはかっこよかったですね。
ベックがへらへらしていましたが。(^^;)
by lequiche (2017-01-05 15:40) 

lequiche

>> リュカ様

あけましておめでとうございます。
いえいえ、全然むずかしくないです〜。
テキトーに書いてるだけのブログですので、
じっくり読まれるとボロが出ます。(^^)
今年もよろしくお願い致します。
by lequiche (2017-01-05 15:40) 

lequiche

>> NO14Ruggerman 様

あけましておめでとうございます。
いつもコメントをありがとうございます。
あ、なるほど。確かにスポーツ選手も多いですね。
私がグルジアといって思い出すのは、
ストルガツキー兄弟 (SF作家) とか、
あと、アレクサンドル・トラーゼ (ピアニスト) です。
トラーゼは、ロシアの 「とんでもない系ピアニスト」 の残党、
という感じがしますね。(^^)
by lequiche (2017-01-05 15:40) 

yam

後れ馳せながら、明けましておめでとう御座います。

ボチボチの更新となりますが、本年も昨年同様宜しく
お願い致します。
by yam (2017-01-05 16:07) 

hatumi30331

お節は作らなくなってから、楽になった分・・・
味の好みがね〜
今年は、たまたま外れ。(笑;)
お正月はいかがでしたか?
今日から活動開始!
いつもの月初めです。
by hatumi30331 (2017-01-05 16:24) 

raomelon

お祝いコメントありがとうございます!
今日も会いに行って来ましたが、手足がかわいい~
顔は昨日より、人らしくなっていました(笑)
病院を揺るがすような大声で泣く元気な赤ちゃんです^^;
by raomelon (2017-01-05 21:39) 

lequiche

>> yam 様

あけましておめでとうございます。
いつも美しい風景と含蓄のある文章に癒やされています。
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
by lequiche (2017-01-06 06:32) 

lequiche

>> hatumi30331 様

できあいだと、それは仕方がないですよね〜。(^^)
年末年始は仕事で自分の時間がありません。
いつになったら休めるのだろう、と思います。
イヤハヤ。(^^;)
by lequiche (2017-01-06 06:32) 

lequiche

>> raomelon 様

おおおお、そうですか〜。ですよね〜。
これからいろいろ楽しみですね。
元気なのが一番です。(^^)
by lequiche (2017-01-06 06:32) 

水郷楽人

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお付き合いいただきますようお願い申し上げます。(^_-)-☆
by 水郷楽人 (2017-01-07 11:07) 

あとりえSAKANA

遅ればせながらですが
明けましておめでとうございます
本年もどうぞ宜しくお願い致します
m(^v^)m
by あとりえSAKANA (2017-01-07 15:09) 

lequiche

>> 水郷楽人様

あけましておめでとうございます。
こちらこそどうぞよろしくお願い致します。
by lequiche (2017-01-07 23:49) 

lequiche

>> あとりえSAKANA様

あけましておめでとうございます。
スマホにするかしないのか、
悩んでいるかたが多いですね。
そのうちまた次の世代のが出てくるかもしれません。
きりがないですね。
今年もよろしくお願い致します。
by lequiche (2017-01-07 23:49) 

moz


遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。 ^^
バティアシュヴィリはブラームスのコンチェルトを聴いたことがあります。好きなピアニストのカティア・ブニアティシヴィと同じような名前で? 気になって聞いてみました。 笑
シベリウス、150年でしたよね。ぼくもCD を何枚か買って聴きました。そうそう、ニールセンもです。交響曲中心ですが、後期ほど精神性が濃くなってきてまだまだ聴き切れていません。コンチェルトではジャケットに惹かれて諏訪内晶子さんのを買いました ^^;
シベリウスのヴァイオリンコンチェルトと言うと、春樹さんの1Q84を思い出します。
by moz (2017-01-08 09:30) 

えーちゃん

今年は、オフ会にはあまり参加出来ないかも?
4月頃までは忙しいし、それに最近体調を崩してしまったので(^^;
まぁ、もう年なので大人しくしてようかな?
by えーちゃん (2017-01-08 11:00) 

lequiche

>> moz 様

あけましておめでとうございます。
こちらこそよろしくお願い致します。

あ、ブニアティシヴィリ。
ピアノのコパチンスカヤですね。(チョットチガウカナ〜 ^^;)
ロシア系の名前はむずかしいのが多いです。
SF作家に、シギズムンド・クルジジャノフスキイ
という人がいますが、なんだろな〜とか思ってしまいます。

シベリウスは曲数も多いですし、
まだ広く理解されているとは思えないような気がします。
特有の民族性みたいなものが
垣根になっているようにも思えます。
それはバルトークなどよりわかりにくいです。
特に歌ものとか。
後期はむずかしいというのもよく言われていますし。

村上春樹! なるほど、そうなんですか。
それがシベリウス全般が流行していることの
ひとつのきっかけなのかもしれません。
by lequiche (2017-01-09 01:53) 

lequiche

>> えーちゃん様

ええええ? そうなんですか?
どうぞ、お身体大切にしてください。
でもオフ会には是非参加しましょう!(コラコラ ^^;)
by lequiche (2017-01-09 01:53) 

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