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マイ・ファニー・ヴァレンタイン ― ビル・エヴァンス&ジム・ホール《Undercurrent》 [音楽]

Rodgers&Hart_160321.jpg
Richard Rodgers and Lorenz Hart (R to L)

1961年にスコット・ラファロを失った後のビル・エヴァンスは、恒常的ユニットを作ろうとする意志があったのだろうか、それともとりあえずの試行錯誤を続けていただけなのかわからないが、アルバムによって、何人ものサイドメンを入れ替えたり、ピアノトリオ以外の構成にしてみたりする流動的な状態が続いていた。そうした試みのなかで異彩を放っているのが、ジム・ホールとのデュオ・アルバム《Undercurrent》(1962) である。

ジム・ホールのギターとエヴァンスのピアノという、どちらもコードを鳴らすことのできる楽器のデュオによる演奏は暗く重いイメージを連想してしまう。それはオリジナルのジャケット・デザインから受ける印象にもその一因があるように思える。
水面下から見上げた風景は、光る水面とその下を漂い流れてゆく女の身体であり、その構図から連想されるのは死の暗いイメージに他ならない。

このジャケットデザインにはいろいろヴァリエーションがあり、あまりにも不吉だからとイラストにしたりしたデザインもあったし、また最近のヴァージョンでは全く異なったデザインに変えたものもあるが、やはりオリジナルのデザインが最も優れているように思う。
デザインだけでなく収録曲にも変遷があり、オリジナルのLPに収録されていたのは6曲、その後、別テイクが加わり、現在市販されているCDで最も多い収録曲数は14曲となっている。過渡期のブルーノート盤では、本テイクと別テイクが入り混じって全10曲というのもあったが、最近はこうした混在は評判が悪いためだろうか、前半にオリジナルテイク、その後に別テイクを追加するというかたちになってきたようだ。

私の今聴いているのは、その評判の悪いブルーノート盤で、1曲目が〈My Funny Valentine〉の別テイク、2曲目が同曲のオリジナルテイクという曲順になっている。オリジナル盤を聴き慣れた耳にとっては、1曲目にいきなり別テイクの〈My Funny Valentine〉が出てくるのは違和感があって気分を削がれること甚だしい。この時期のブルーノートがなぜこんな編集法をしたのか理解に苦しむ。

もっとも、本アルバムのムードを支配しているのはまさにこの冒頭曲の〈My Funny Valentine〉であり、他の曲が比較的遅いテンポの多いなかで〈My Funny Valentine〉のみ、速いテンポであるのにもかかわらず、Undercurrent というアルバム全体のイメージを提示する役割があるように思える。

別テイクがなぜ没にされたのかは、2曲を較べてみれば一目瞭然だが、2人のリズムに対する反応のタイミングが似通っていて、それがこのアルバムの緊密感を生み出していることが特にこの曲へのアプローチに感じられる。ソロをとっていない側の伴奏のニュアンスにやや散漫さがあり、またスウィング感が微妙に劣っているのが別テイクであるが、それは較べるからそう思えるのであり、内容的な密度が高いことには変わりない。
別テイクのトリッキーなピアノのイントロも面白いのだが、オリジナルテイクの暗さのなかにぐんぐん没入していくようなスピードと2人の絡み合いかたのほうが優れているのは確かである。
それよりもそもそもこのマイ・ファニー・ヴァレンタインという曲はこのようなテンポで演奏されるべき曲ではなかったはずだ。

リチャード・ロジャース (Richard Rodgers, 1902-1979) は、ロレンツ・ハート (Lorenz Hart, 1895-1943) の作詞により、ミュージカル《ベイブス・イン・アームス》(Babes in Arms, 1937) のためにこの曲を書いた。ロジャースはミュージカルの巨匠であり、その曲の数々がスタンダード・ナンバーとして今も演奏されている。
以前のブログに書いたジョニ・ジェイムスの《Little Girl Blue》のタイトル・チューンもミュージカル《ジャンボ》(Jumbo, 1935) のための曲である (ジョニ・ジェイムスについては→2014年12月26日ブログを参照)。

ハートの死後、ロジャースはオスカー・ハマースタイン2世 (Oscar Hammerstein II, 1895-1960) とのコンビで、《王様と私》(The King and I, 1951)、《サウンド・オブ・ミュージック》(The Sound of Music, 1959) などのミュージカルを作曲した。《サウンド・オブ・ミュージック》のなかの〈My Favorite Things〉は単なるスタンダードにとどまらず、ジャズのスタンダード・チューンとしても知られる。

でも《Undercurrent》は、そのマイ・ファニー・ヴァレンタインが終わった後の、ゆっくりとしたほの暗い曲のなかに真髄があるのかもしれない。たとえば〈Dream Gypsy〉の暗くて官能的なデュオは《Undercurrent》のもうひとつの面である。


Bill Evans & Jim Hall/Undercurrent (Universal Music)
アンダーカレント




Bill Evans & Jim Hall/My Funny Valentine
https://www.youtube.com/watch?v=kv_NqcezWos
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コメント 4

ponnta1351

サラボーン、フィッツジェラルドが好きでした。
by ponnta1351 (2016-03-21 17:14) 

末尾ルコ(アルベール)

先日「ジャズ・トゥナイト」でエヴァンスの特集をやってました。このお記事を読み、またしてもじっくり聴き込みたくなりました。

                  RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2016-03-22 01:16) 

lequiche

>> ponnta1351 様

ジャズ・ヴォーカルの巨星の2人ですね。
その歌は永遠に古びず、色褪せない音楽だと感じます。
by lequiche (2016-03-22 03:39) 

lequiche

>> 末尾ルコ(アルベール)様

そうなんですか。
早速NHKの番組サイトで過去放送記録を見てみました。

このブログに書いたジム・ホールとの
My Funny Valentineが選曲されているのは当然としても、
ジョージ・ラッセルとの演奏や、
N.Y.C.’s No Lark がかけられていることは、
以前の私が書いたビル・エヴァンスのアルバム
《Conversations with Myself》に関しての記事で
触れている内容と共通する部分があり、やはり児山先生も
そのあたりをおさえているんだなぁ、と思いました。
直接放送を聴いたわけではないので違うかもしれませんが。
by lequiche (2016-03-22 03:40) 

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